一昨日の「シンポジウム 文化芸術による『福岡の街、未来を』考える」(主催福岡市)での平田オリザさんの基調講演に就いて、私が理解した主旨をご報告します。平田さんは大学の後輩でもありますので、今後大学での講演も計画しようと考えています。 山口実


                     記

                      

平田オリザさんは、多面的な考えの出来る素晴らしいアーティストです。彼は、ICU在学中から劇団「青年団」を結成し、自ら支配人も努めました。数々の賞を授与された劇作家であると同時に、演劇を通して多角的な教育活動を展開しておられ、昨年はモンブラン国際文化賞も受賞されています。本年から大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授もされて、お医者さんの卵たちに必修科目として演劇を通したコミュニケーション術を教えておられるそうです。


平田さんのお話は多岐に亘ったものでしたので、僕なりに理解した要旨を以下に記します。

文化や芸術は街づくりに欠かせないもの。

この20年街は利便性や効率を追求したために画一化してしまい、重層性を失った。

‘80年代の米国のように、郊外型のショッピングモールが溢れる一方、商店街がさびれ空き店舗が増えた。かつて商店街には子供たちの教育係やお守り役を務めるお年寄りがおり、また床屋と銭湯のようなコミュニケーションのスペースがあった。そして自分が生まれ育った駒場はそのような街であった。

しかし、渋谷のように無理やり広げた街には、公園や噴水のようなスペースもなくチーマーがたむろし、危険きわまりない状況になっている。これは弱者のためのスペースを作って来なかった行政の無策によるものである。

学校にしか逃げ場の見いだせない子供たちの一部はいじめに走る。

街づくりに必要なのは劇場やコンサートホールのような出会いを生む新しい広場であり、文化や芸術が楽しめる非日常の空間である。

緩やかなネット社会

強固な地域の再構築が難しい現代、大切なのは誰かが誰かを知っている社会、弱者に優しい街を作ることである。これはまたダムや堤防を作るより遙かに安上がりな保安対策となる。その為には、住民の意見を取り入れた文化施設を街の中央に造るべきである。

郊外型の劇場など、これから高齢化が進めば人が行かなくなる。

例えば、ヨーロッパではホームレス・プロジェクトと言って、街の中央にある劇場の余った座席にホームレスの人々を招待し、社会復帰の力としている。

フランスナント市の復興

例えば、フランスのナント市は造船業の競争力低下などで衰退していたが、若い市長が就任してから文化と芸術で街を再生した。現在は、フランス国民が引退後に住みたい街人気No.1となっており、またアーティストが住みやすい街となっている。ビスケット(カンパンのような)工場の跡地にアーティストセンターを造り、ベートーベン音楽祭(ナント音楽祭)など様々なイベントを行うことで街が活況を呈している。またそのことで、街のブランド力が上がり、低迷していた造船業も高級クルーザー建造で復活している。

天満天神繁盛亭(http://www.hanjotei.jp/  ご参照)

また、大阪の天神町筋も街の人々の力で繁盛亭を昨年9月にオープンした。200人のスペースで朝昼晩の3公演、年間十数万人の動員力しかないが、賑わう商店街の店主の意識が変わってきた。経済的には大型店舗には勝てないが、付加価値の高い街づくりを皆が考えるようになった。

⑤ 経済構造の変換 工業立国からサービス立国へ

ものづくりの産業戦士から、サービスや付加価値を高める人材が必要とされている。

そのためのコミュニケーション能力や勇気を育むためには子供のうちに、芸術・文化に触れ、外国人とも付き合って想像力や感性を高めることが必要である。

このことについて文化や芸術に触れられない子供の地域間格差も出てきている。

   例えば、筑波大学駒場高校の学生は、文化や芸術に触れながら大学に入るが、そう言った環境に恵まれない地方の学生は、大学に入学してから話の違いにカルチャーショックを受けて、不登校にさえなっている。

アイディアが人を呼ぶ

富良野は、日本では「北の国から」というテレビドラマで有名になったが、今は韓国・台湾・シンガポールなどの外国人観光客が半分を占めている。彼らはラベンダー畑や本国にない景色やおいしい食事を求めてくる。富良野の人々はアイディア出し合って、香水やワインを作ったり、牛乳搾りやケーキ作りなどの体験イベントを行ったり、屋外アートギャラリーを開いたりしている。また、富良野の六郷では、大人達がどうやって付加価値を付けて売るかを自覚し、アイディアを出し合っている。

 一方、夕張や芦別は酷い。特に、芦別は広告代理店などに乗せられて90年代に地方債を発行し、五重塔や観音像やテーマパーク(カナディアンパーク)を建設してその負債に苦しんでいる。

 地域が判断力をつけ、地域の人々がソフトを選択する力を付けることが大切である。従い、地域住民一人一人の意識がどれだけ高いかが地域の発展を決する。

文化芸術による福岡の街づくり

アジアの人々に質の高いサービスを如何に提供するかが課題である。新幹線等の発達で

観光客が福岡に滞在しなくなる可能性がある。その為には、ナイトカルチャーを発展させることが重要であろう。例えば、ウィーンのオペラ劇場ウィーン国立歌劇場ではオペラ好きの観光客のために毎回違う演目を公演している。2000人が収容出来るから、一人が宿泊費や食事代などを含めると15万円を費やすとすると毎日1億円が落ちることになる。

街づくりには高度な文化芸術を催す施設とその中身を創出することが重要であり、そのためには何十年と言う努力に蓄積が不可欠である。

その後平田さんの基調講演に基づいたパネルディスカッションがありましたが、長くなるので省略いたします。三輪嘉六九州国立博物館長の博物館の運営に関するアイディアや苦労話はとても参考になりました。吉田市長は、文化芸術に関しては、「『まん中を幅広く』と言う支援をして来たので、メリハリのつけ方が未だ分からない。」と言っておられました。

質を高い文化・芸術イベントを開催できるよう福岡市民としてサポートしたいと考えています。


―以上ー